大阪家庭裁判所 昭和45年(少ハ)8号 決定 1970年10月28日
少年 K・E(昭二五・七・七生)
主文
本件申請を棄却する。
理由
一 本件申請の理由要旨
(一) 本人は、昭和四四年一〇月二九日大阪家庭裁判所において昭和四四年少第六九六五号、七〇八四号窃盗・同未遂保護事件につき中等少年院送致の決定を受け同月三一日奈良少年院に入院したもので同四五年二月一日二級上へ進級し、同月三日籐工科の職業補導に編入され指導訓練を受けていたが同月二五日から同年六月一七日に至るまで三回に亘つて在院者に対する暴行、不遜な言動の反則行為によりそれぞれ二〇日から一〇日の謹慎処分、二〇点から一〇点の減点処分を受けたこともあつた。しかし、その後次第に落着きを取り戻し、同月二二日職業補導につき電気工事士養成所コースの電工科に編入されてからは熱心に勉強し成績良好の状態で経過し同年八月一六日、一級下に進級し、同年一〇月一六日現在においても処遇段階は一級下であるが、満期日の同月二九日には一応一級上に進級できる見込みである。
(二) しかしながら、一級上進級後もなお若干社会復帰のための教育を施す必要があり、また、本人自身、出院後の更正のため電気工事士の資格を取得を強く望んでいるので前記養成所の教育完了日である同四六年三月一四日(翌日の同月一五日同資格が与えられる予定)まで収容継続する必要がある。
二 当裁判所の判断
(一) 本人に対する当家庭裁判所調査官の調査報告書、審判における本人、保護者K・S、奈良少年院法務教官篠原逸男、同西田俊一、原山晃の陳述に基き、次のように判断する。
(1) 本人は、昭和四四年一〇月三一日奈良少年院に入院してから本件申請の理由要旨の通りの経過を辿つて同四五年一〇月二八日現在形式的には処遇段階一級下であるが、既に実質的には一級上に進級できる状態にあり、同年一一月一日一級上に進級することがほぼ確実であることが認められ、同年二月一六日から同年五月一六日まで三回反則行為があつたものの、その後、次第に情緒の落着きを取り戻し、現在においてはその性格の面においても生活態度や言動の面においても安定し、電気工事士の資格取得のため真剣に勉学に励んでおり、顕著な問題性は全くみられず、本人に特徴的であつた欲求不満に対する耐性の弱さ、社会規範に対する反抗的な構えや一定の枠組におさまれないといつた傾向も現段階における本人の性行からするとほぼ是正されたと推測でき、一応その犯罪的傾向は矯正されたと考えられ、少年院での矯正教育の目的は概ね達したと解される。
(2) ところで、処遇段階が一級上に達した後行われる約二ヵ月半程の社会復帰のための教育が施されることは抽象的・一般的には本人にとつても望ましいことであると考えられるが、前記(1)のような矯正成果の情況更には本人自身、退院後は前記養成所コースで習得したことを活用して、電気関係の仕事に就職し、傍ら学校に通学する決意を固めており、保護者も本人の希望に沿つて監護する意向を持ち、家庭における受入体勢にも問題はないことなどを併せ考えると、本人に対し、収容継続してまで社会復帰のための教育を行う必要性は乏しいと解される。
(3) また、電気工事士の資格取得の点に関しても、これまで転職が激しかつたことを考えると、資格を取得させて安定した職業生活を営ませることはその犯罪的傾向を確定的に矯正するために望ましいことであると考えられるが、しかし、資格取得のためには奈良少年院の前記養成所コースが、残された唯一の手段というわけでなく、本人の能力、資質、保護者の経済状態など勘案すると退院後において関係の諸学校ないしは職業訓練所等で取得できる余地は十分残されていること、しかも、前記養成所コースでの教育も現在まで約四ヵ月の課程が消化されたのみで、資格取得までにはなお、約四ヵ月半もの期間を要すること、本人としても最近までは収容継続を受認してでも資格を取得したいと望んでいたが、現時点においては、その希望を撤回し、退院後電気関係の仕事に従事しながら勉学する決意を披瀝していることを併せ考えると、前記(1)のように一応本人の犯罪的傾向が矯正されているとみられる現段階においては電気工事士の資格取得のために敢えて収容継続を行う必要はないと考えられる。
(二) よつて、本件申請は理由がないから棄却することとして主文のとおり決定する。
(裁判官 円井義弘)